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裁判員経験者の思い

 2017年12月3日、”裁判員ACT”裁判への市民参加を進める会が公開学習会「私たちは裁判員制度にどう向きあうか~裁判員経験者たちの思い」を開催しました。

 学習会では神戸地裁で裁判員を務めた女性(40代)がその経験を語り、私が進行役を務めました。内容を紹介します。

裁判員の経験を聞く

 女性は発達障害者の支援や啓発などの活動をするNPOの代表を務めており、週3日はキャリアカウンセラーとして就職が困難な若者の就労支援をしている。2017年7月、裁判所から呼出状が届いた。

 娘が、「ママ、書留が届いたよ。裁判所から!」というので、私が何かやったのかと思いました。呼出状には5日間の裁判の日程だけが書いてあり、どんな裁判かはまだわかりません。この時点では選ばれるかどうかわからないのに、仕事の予定を調整するのは難しいと感じました。説明書類を読むと、重要な仕事でないなら参加するようにとあるんですが、委員をしている障害福祉審議会や職場の研修の日程が重なっていて、それらと裁判員の任務とどちらが重要なのかわからないし、抽選の結果選ばれないかもしれないしと、迷いました。殺人事件だったら嫌だなと不安な気持ちもありましたが、仕事を調整して裁判所に行きました。 [endif]--StartFragment

 9月12日、選任手続。補充裁判員に選ばれる。EndFragment

 選任手続きには30人くらいの候補者が来ていました。事件と関係がないか、など確認の上、特別な事情がなければ7人くらいのグループ面接で「日程は大丈夫か」など簡単な質問を受けます。その後、抽選で6人の裁判員と2人の補充裁判員が選ばれるのですが、私は最後の1人、補充裁判員2になりました。8人のうち男性は1人だけでした。

 裁判所からのオリエンテーションを受けて昼食をはさみ、午後からすぐに審理が始まりました。法廷に出た時は、裁判員としての責任の重みを感じて、1列うしろの補充で良かったなという気持ちでした。

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 担当したのは、暴力団の関係者が強盗を企て、資産家の高齢の女性の自宅に押し入って金庫から現金や貴金属を奪ったという住居侵入、強盗致傷の事件。被告人は暴力団とは無関係だったが、誘われてこの犯行に加わった。

 暴力団の2人と被告人、他にもう1人が見張り役として加わって4人の犯行でした。4人は元々知り合いではなく初対面。暴力団の2人は証言席で詳しいことは語らず、「一緒にやったのは被告人で間違いないですか」という質問にも、「当時と髪型も違うしわからない、覚えていない」という答え。被害者が盗まれたと証言する金額と、共犯者の証人たちが盗んだという金額には1000万円以上の差があって話がバラバラ。

 カウンセラーの仕事をしているので、ふだんから人の話を聞くことには慣れているのですが、誰が本当のことを話しているのかわからないし、たくさんの証拠が出てきて情報に追いつくのがしんどかったです。ふだんから、メモを取りながら話を聞く習慣があってそうしていたのが、後の評議で役に立ち、証言の矛盾が見つかったりしました。もう一度あの資料が見たいと言えば見せてもらえるのですが、そもそも、どの資料があるのか覚えられないし、どれが重要な証拠なのかもわからないし、後から質問もできないので、難しいなと思いました。

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 被告人は薬物依存があり、逮捕歴があった。事件当時も仮釈放中で更生保護施設にいたところを、誘われて犯行に加わった。被告人はやったとも、やっていないとも言わなかった。 [endif]--StartFragment

 被告人は完全黙秘で、事実関係がとてもわかりにくかったです。裁判官から説明を受けて黙秘について悪い印象はなかったですが、本人が何も言わず、証言もバラバラで事実関係がわかりにくいのに、裁判員として判断しないといけないのは辛いと感じました。証言を聞いて疑問に感じたことは、補充だったので裁判長が代わりに質問してくれました。

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 検察官の求刑は懲役9年。何度も犯罪を繰り返しており重い罰をという意見。弁護人は、他の証人の主張は信用できないので無罪と主張した。

 評議では、想像力が必要でした。他の人がやった可能性があるのかをみんなで考えました。冤罪にならないように、ちょっとでも違和感があるところがないか。第三者がいたとして、この時系列で可能かどうか。そんなことをした理由や、他にメリットがある人がいるのかなど時間をかけて考えた結果、様々な証拠から、暴力団の仕事に巻き込まれて利用された、というイメージが見えてきて、どう考えてもまったく事件に関与していないということはないだろう。無罪は難しいという結論になりました。

 次に刑を考えました。過去の判例も参考にして、意見を出し合います。どのくらいの刑にするか、紙に書いて投票しましたが、1回目の投票には補充裁判員も参加して意見も述べました。裁判官は、1人ずつ、全員に平等に意見を聞いてくれました。

 裁判中は、自己紹介をせず番号で呼ばれます。自分自身について話していいのか、お互いに聞いていいのかわからず、発言の背景や立場を明かさずに意見だけ言うのはやりにくかったですが、自分の意見はしっかり言えたと思います。

 裁判官が意向を聞いてくれて、判決にも立ち会いました。

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 9月20日、判決言い渡しに立ち会う。判決は懲役6年6月。裁判員裁判の経験を振り返って今、思うこと。 [endif]--StartFragment

 仕事で依存症の人の支援もしている立場から見て、被告人には依存症の人によくある特性を感じました。事件の翌日、分け前の25万円で薬を買い、すぐに見つかって逮捕されています。刑を重くすればよいという単純な話ではないと思いました。真面目だけど孤立している、きっかけができれば更生できると思いましたが、そういう議論はできなかったのが残念です。

 裁判員裁判では、ふだんの生活ではかかわらないような話を、限られた情報の中で判断することになります。私たちが、自分たちの知らない世界をどれだけ理解しようとするか。一般の市民感覚が正しいと言い切れるのか。そういうことを考える機会になりました。人は、自分だけのために生きているのではなくて、社会の一員としての責任もあるんだという感覚。裁判員を経験して、それがよくわかりました。

 裁判員になったこと自体をよくないこと、隠しておくようなことと考える人が多いですが、選挙と同じように、裁判員に選ばれた時の責任を実感できる教育や環境づくりをし、誰もが自分も選ばれるかもしれないと感じられるような制度であってほしいと思います。裁判員裁判が、見えない世界を見、社会の中で起こっていることを、自分ごととして感じられる場になったらいいなと思います。

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(聞き手、文・如月オフィス 川畑恵子)

※裁判員ACT通信52号として川畑が執筆し、裁判員ACTのブログなどで公開された原稿から、裁判員経験者のお話を抜き出して紹介しています。裁判員ACTのサイトはこちら

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